こんにちは「とある医師」です。


I accidentally brought money to a book sale. / Brittany Stevens


『16万人の脳画像を見てきた…「賢い子」に育てる究極のコツ』に物申す!

タイトルから刺激的ですが、瀧靖之氏著『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』に対してボクの感想を述べたいと思います。

まず予めお伝えしておきますが、タイトルから類推出来ますようにボクはこの本に非常に批判的な立場です。

著者に好意的な方にとっては耳触りの悪い記事になることをお伝えしておきます。
悪しからずご了承下さい。

『16万人の脳画像を見てきた…「賢い子」に育てる究極のコツ』の感想

帯には「●万部!」と冠されベストセラーとなった同書ですので店頭でご覧になった方も多いと思います。
実際、内容自体は比較的納得できるもので、参考になる部分も多いかも知れません。
でも、辛辣ですが端的に言いましてボクは読後「時間が無駄だった」と感じてしまいました。
なぜなら、ボクがこの『16万人の脳画像を見てきた・・・』というタイトルから期待した内容は、MRI/CTといった画像検査や脳科学的なデータに基づいた見識であって、教育者でもない著者の教育論ではないからです。

『16万人の脳画像を見てきた…「賢い子」に育てる究極のコツ』への不満

もう少し詳しく言いますと、本書の内容は、科学的な記述も勿論触れられてますが、その多くは様々な書物で見聞きしたことのあるような育児や教育についてのエッセンスと、それらをまとめた著者の教育論と言ったところです。

耳触りは良いけど、読んでいて何となく納得出来ない。。。
読み進める途中も、読み終わってもなぜかそう感じてしまいました。

その理由を考えると、

いろいろな子どもの教育や成長について述べられていますが、それぞれの内容が

1)科学者の立場
2)教育者の立場
3)別の論文や書物などからの引用

のどれを根拠に述べているのかが非常に曖昧だからであることに気が付きました。

1)については「最近の医学では・・・」と触れられていれば背景が理解出来ます。
しかし、その他の2)、3)については文章が上手で読みやすいことも手伝って、さも当然のようにいろいろな内容が記されていますが、よく読むと根拠が明記されていなかったり、記載されていても「という報告があります」という程度であったり・・・。

また実例として出るのは著者のお子さんであったり、知り合いのお子さんであったりと、限定された例での話で信頼性が低いと言わざるを得ません。

育児や教育に相談に乗った経験も書かれているので、ある程度教育にも携わっておられるのかも知れませんが、経験論で語るのならそういう立場で発言しないと、本のタイトルは脳医学者(ボクはこの言葉自体を初めて聞きましたが)を前面に押し出しており、肩透かしを食らった感覚が強烈でした。

繰り返しますが、文章も上手であり、内容の正誤や主張も含め、読み物として否定する
つもりはさらさらありません。
でもでも、あまりにタイトルと乖離が過ぎないか?!と問いたい気持ちでいっぱいです。
繰り返しますが、この内容はボクには「著者個人の教育論」としか思えない内容でした。
科学者としてデータに基づいた内容ではなく、どこかから借りてきたような教育論は何も「16万人の脳画像を見てきた脳科学者」に聞きたいわけではありません。
データなどでの裏付けが困難な教育であるこそ、多数の文献や論文を比較的中立な立場でまとめた書物もありますし、データというものから完全に外れた経験論であれば、それこそ教育・育児の最前線に立たれた経験をお持ちの方が記された参考になる書物も多数あります。
過言を承知で言わせて頂ければ、そもそも(現場に立つ)教育者でもない著者個人の教育論にボクは興味はないのです。

ですから、決して内容自体が悪いわけでも、反対でもありませんが、個人的にはタイトルや緒言とから想起していた内容と余りにかけ離れすぎており、また悪く言えば文章が上手過ぎて著者の個人的な主張をさも当然のように記載された内容に非常に反感を覚えたとわけです。

最後に

本書に好意的な感想を抱かれた方にとっては耳に痛い、不愉快な記事になるだろうなと危惧しつつも敢えて今回こうした記事を書きました。
その理由は、同書がベストセラーとなったが故にもっと参考になる、良書に接する機会が奪われかねないと考えたからです。
これまでもタイトルと乖離していた書物を批判的に記載したことはありますし、他にも無数とあると思います。
ですから恐らく出版社側の責任も大きいと考えますが、とにかく本書はタイトルも刺激的であることから売りやすく、実際ベストセラーとなったことで余計注目を集めることとなり、ますます多くの人の目に触れると思います(ボクは読んでいませんが、同様のタイトルで第2弾も製作販売されているようですね)。
普段から教育や育児についての書物をよく見ておられる方にとっては別段この本から得られるものがなくても問題ないと思います。
普段からこうした内容の書物をよく読まれている方にとっては、内容に特別新しいものが無くても、知識の整理や補強にもなりますし、「あまり役に立たなかったな」と感じても、別の本を探せば良いだけです。
ですが、普段こうした本を読まない方が、棚売りされている同書の刺激的なタイトルと「ベストセラー」という惹句に興味を持たれて手にとって、内容にがっかりされた場合、

こうした方が別の「育児本」に興味を持つ機会を奪いかねません。

どのような本が役に立つかなんてことは、読み手の知識、年齢・育児歴など様々な要素によるため「万人にとっての良書」が存在することはありませんが、店頭に行けば平積みにはされていないけど、実はその人その人にとってその段階で一番読みたい本があるはずです。Amazonでレビューを見ながら探すも良し、店頭で探すも良しですし、どうか皆様にとってより良い本に出会える事を祈っています。

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