こんにちは「とある医師」です。
寒い時期になると加湿器のニーズが高まりますが、2020年師走に、ある芸能人の方が「加湿器で命を落としかけた」と大変話題になっていました。
ボクは予てより「加湿器は使い方次第で凶器になる」と、勝手に【カビ散布マシーン】と銘打ってその危険性を訴えて来ました。
そこで、社会的にも加湿器のリスクが周知されつつある状況なので、加湿器肺について深堀りする記事を書いてみます。
先に結論を書くと、
- 加湿器は加熱式一択!
- 特に超音波式加湿器はまさに【カビ散布マシーン】そのもの
- 人気の気化式も安全ではない
- ○✕クラスター、△□イオンも無力。。。
ということです。この記事を読んでも
- 加熱式以外の加湿器を使う勇気、ありますか??
とボクは問いたいです。
記事の最後に、もう1度この質問をしてみたいと思います。
この記事は以下のような内容で書いています。
加湿器肺とは? 定義と原因
そもそも「加湿器肺」とは何なのでしょうか?そしてその原因は何なのでしょうか?というところから始めます。
医学論文を出典
医学的な見解を述べる記事ですので、きちんと医学的な出典を基に記載します。
出典はGoogle Scholarを使って"加湿器肺"で検索した上位の論文としました。
英語論文についてもpubmedで検索しましたが、英論だと加湿器関連性肺炎として、お隣の韓国の論文が多数出てきます。
ただ韓国の加湿器関連性肺炎は、数年前まで韓国では加湿器に消毒液を混入して使っていたそうで、その消毒液による肺炎に関する論文が多数を占めており、日本にそのまま当てはまりませんので、今回は日本語論文を出典としました。
主に2つの論文ですが、共に後方視点的な症例報告であり、対象も3例と30数件の研究ですので所謂エビデンスレベルの高い文献ではありません。
ただ加湿器肺について前向き研究などは到底倫理的に計画出来ませんし、この記事は医学的論文ではありませんので、一般的な知識としては十分有意義な根拠だと考えます。
また2018年と2019年発表の新しい文献です。
humidifier lung
前置きはこれくらいにして、加湿器肺について簡単にまとめていきます。
加湿器肺とは? 定義と原因
さて改めて「加湿器肺」とは何なのでしょうか?その定義ですがこう書かれています。
「加湿器肺」とは?
- 加湿器肺は,加湿器内に増殖した微生物に対するIII型・ IV型アレルギーが発症機序の一つと考えられる、過敏性肺炎の一つ
呼吸不全を呈した加湿器肺 3 例の臨床的検討(一部改変)
この言い方で難しい場合は、
- 加湿器のせいで起こる肺炎の1つ
と考えると良いでしょう。
加湿器肺の原因
では、
- どうして加湿器のせいで「加湿器肺」になるのでしょう?
また論文から引用すると(一部省略)、
- 加湿器肺の推定される原因抗原は真菌やグラム陰性桿菌,非結核性抗酸菌等さまざま
- さらにグラム陰性桿菌の細胞壁の構成成分であるエンドトキシンの可能性も
- エンドトキシンは経気道的吸入により炎症を惹起し,肺障害をきたす
呼吸不全を呈した加湿器肺 3 例の臨床的検討(一部改変)
こうした原因で肺炎を来すのが加湿器肺です。
- 加湿器の中で発生する病原体が直接・間接的に肺に悪影響を及ぼす=加湿器肺
と言い換える事もできます。
因みに一部記事で指摘されているレジオネラについては、加湿器を介したレジオネラ肺炎の報告はあるものの、加湿器肺の報告は過去なく、今回の検証でもレジオネラは検出されていません。
レジオネラと加湿器肺の関連性は評価が定まっていないようです。
加湿方式ごとの危険性について
加湿器は、加湿方法でいくつか分類があります。超音波式、気化式、加熱式、ハイブリッド式などが一般的です。加熱式はスチーム式と記載されていることもあります。
国内大手メーカーが採用するのが気化式で、比較的安価かつ、オシャレ家電として販売されているのが超音波式です。
加熱したものを気化させるハイブリッド式も、安全性とコストのバランスが良いと巷では人気ですよね。
そんな中で、
- 加湿方法ごとに病原菌の排出しやすさが全然違う!
こというのが今回のポイントです。
ここでは主に加湿方法ごとの実際の菌の発生状況を検討した画期的な文献①から多く引用します。
とにかく超音波式は超絶危険
文献では貯留タンクと加湿器から出る排気を詳細に調査していますが、まず超音波式についての結論を述べると
- 超音波式はメンテナンスしても大量の排菌!
- 加湿器肺として報告されているのは「全て」超音波式加湿器!
という衝撃の内容でした。
- 家庭用超音波式加湿器において、病原菌が多くの加湿器で検出され、うち半数以上で過敏性肺炎を発症しうるレベル
- 貯留水汚染は著しく、加えて噴出される菌量が著しく多い
と相当強く述べられています。
実際、文献②で報告された重症である呼吸不全となった3例は全て新規に購入後、3ヶ月以内に発症しています。
文献にはさらに衝撃的な事実が並びます。
気化式も大量の排菌
国内大手メーカーが販売する加湿機能付き空気清浄機、その多くは気化式だそうです。
そんな気化式についても別の研究からの引用を用いながら
- 気化式加湿器で、貯留水中における細菌数の著しい上昇
- 気化式においても、16台すべてで検出し、うち6台で2+以上の菌量を検出
- 気化式加湿器では高率に吹出気より微生物を検出し、かつ貯留水に繁殖した微生物が空中にも散布されうる
と書かれています。つまり、
- 気化式もとっても危険!
というショッキングな結果でした。
唯一安全なのは加熱式(スチーム式)
散々な結果でしたが、
- 加湿器は危険がいっぱい?!
- 安全な加湿器は存在しないの??
と思われるかもしれません。でも大丈夫です。
論文で検証された加熱式加湿器は2台のみでしたが、いずれも貯留タンクと加湿器から出る排気において、病原菌類(菌叢とエンドトキシンいずれも)は観察されなかったそうです。
また加熱したものを気化させるハイブリッド式についても、間欠期(非加熱期)においては5台中4台で病原菌が確認されますが、加熱した状態では病原菌は認められなかったそうです。
つまり、方式を問わずシンプルに加熱した加湿器だけが病原菌の検出はなかったとされています。
メンテナンスや○✕クラスター、△□イオンも無力
唯一安全なのは加熱式、と書いても「加湿器にはメンテナンスが重要」なことは常識なんだから、
- きちんとメンテナンスすれば大丈夫でしょ?
さらに、国内大手メーカーの加湿機能付き空気清浄機には
- 抗菌フィルター、○✕クラスター、△□イオンで安心!
と書いていますよね。
この安心感から大手国内メーカーの加湿器や、加湿機能付き空気清浄機を選択されている方も多いと思います。では
きちんとメンテナンスをしても大量の排菌
まずメンテナンスですが、残念ながら超音波式については検証した加湿器のうち、頻回にメンテナンスされていた複数台について
- 毎回使用後に乾燥させているにもかかわらず貯留水や吹出気から大量の生菌が検出されたことから,適正使用下においても危険性が高い
呼吸不全を呈した加湿器肺 3 例の臨床的検討(一部改変)
という目が飛び出るほど衝撃的な記載でした。
また気化式についても、多くの説明書には手入れについて「4週毎」または「匂いが気になった時」と記載されていたそうですが、
- 加湿器トレーの細菌数は稼働当日から経時的に増加し、7日目で成熟、その後、定常状態になる
- 気化式であっても、少なくとも週に1度は加湿トレーの清掃・乾燥・殺菌処置などを行うべき
呼吸不全を呈した加湿器肺 3 例の臨床的検討(一部改変)
と書かれています。
- 少なくとも週に1度は清掃・乾燥・殺菌処置なんて絶対ムリ、、、
ボクには到底「適切なメンテナンス」なんて出来ないと改めて確信しました。
抗菌フィルター、○✕クラスター、△□イオンも無力
次に国内大手メーカーの加湿器や、加湿機能付き空気清浄機に搭載されている抗菌フィルター、○✕クラスター、△□イオンはどうでしょうか?
まず前提として、抗菌フィルターはほとんどメーカーが謳っており、メンテナンスの少なさをアピールしています。そして○✕クラスター、△□イオンなどはメーカーごとの独自機能です。
- 気化式加湿器16台のうち、14台がプラズマや微粒子イオン技術を応用した微生物の繁殖を抑制する機構が備わっていた機種
呼吸不全を呈した加湿器肺 3 例の臨床的検討(一部改変)
今回の論文ではこれらについての直接的な検証はしていませんが、検証した気化式空気清浄機の多くに上記機能が備わっている上での結果ですので、間接的に効果が乏しいことを示すと言っても良いだろうと思います。
メンテナンス頻度が少ないことをアピールする抗菌フィルターなども、あまり実効力はなさそうです。
つまり、
- 抗菌フィルター、○✕クラスター、△□イオンがあっても安全ではない、、、
と考える他なさそうです。
ただしあくまでこれは加湿機能についての話であって、空気清浄機において当てはまる話ではないことは強調しておきます(個人的には同様に効果はないか、あっても非常に限定的だ、という立場ですが)。
加湿器肺から赤ちゃん子ども、自分を守るために
赤ちゃんや子どもをきっかけに、またご自身の健康を守るために加湿器を導入するご家庭も多いと思います。
でも健康のための加湿器が使い方次第で重篤な悪影響を及ぼすとしたら、とても怖いですよね。
しかも気化された水蒸気は無色透明でおおよそそこに病原菌が潜んでいるなど想像も出来ません。
その危険性の最たるものが今回取り上げた加湿器肺という病気でした。では
- 加湿器肺から赤ちゃん子ども、自分を守るためにはどうすれば良いの?
という疑問に答えることで、この記事のまとめとします。
手軽に扱いたいなら加熱式(スチーム式)加湿器がおすすめ
文献には各加湿方法についてまとめとして「衛生管理を徹底すればどのタイプの加湿器も比較的安全に使用出来る」とマイルドに記載されています。
しかし、その「衛生管理の徹底」がとにかく大変です。
書いてきたように超音波式に至っては、毎回使用ごとにきちんと乾燥させても著しく多い排菌が検出され、気化式も最低1週間ごとに厳密な衛生管理が必要です。
今回の文献は病原菌の量にフォーカスしたもので、実際の健康被害を検証したものではありません。
(ただ健康被害を検証するのは、倫理的に不可能というのが現実です)
また超音波式のところで記載したように加湿器肺として報告されているのは全て超音波式であり、気化式での文献は幸い無いそうです。
さらに、文献②で報告された3例はいずれも新規購入ながら、水を継ぎ足して使用する、というかなり推奨されない方法での発症かつ重症例の報告です。
つまり超音波式でも気化式でも直ちに加湿器肺となるとは限りません。
でも病気にすぐになるわけじゃなくても、
- 「病原菌がたっぷり含まれる」と分かって使うのは嫌だ。。。
とボクは思います。
そうなると、日常的に使う加湿器として妥当なのは
- とにかく加熱式が唯一安全
しかも加熱式はほぼメンテナンスフリーに近いわけですから、一石二鳥ではないでしょうか。
ハイブリッド式も「加熱していない時間に病原菌が増えるリスク」を理解した上なら良いのかもしれません。
加湿器肺にならないためのおすすめ加湿器
加湿器肺にならない、あるいはクリーンな環境を「手軽に」を望む場合、お話してきたように加熱式(スチーム式)加湿器が最も優れています。
ただ当然ながら沸騰させた蒸気を放出するという原理上、電気代がかかることは知っておく必要があります。
加熱式加湿器に絞ったランキングが探せませんでしたので、評判の良い加湿器をいくつか紹介します。
(商品名に「加熱式」と追加された超音波式、気化式が必ず紛れ込むため)
安心なブランドとしては象印、三菱電機、アイリスオーヤマ、山善あたりがいろいろな口コミやレビュー、ランキングで評価が高いですね。
お値段やブランドで選ぶのでも間違いないと思いますが、対応する部屋のサイズにはご注意下さい。
ボク自身は象印の加湿器を以前から使い、非常に満足しています。
象印特有の何か、というよりは加熱式加湿器に共通する手軽さと性能の高さとも言えると思いますが、象印加湿器のレビューについては下記関連記事もぜひご覧下さい。
最後に冒頭の質問をもう1度したいと思います。皆さんは
- 加熱式以外の加湿器を使う勇気、ありますか??
この記事の注意事項
この記事の基となった論文は、市販製品全てを検証した結果ではなく、著者らの周囲環境で入手出来た加湿器をサンプルとして検証したものです。
製品によっては加湿方法を問わず、きちんと安全性が担保されている製品もあるのかも知れません。
つまり全ての超音波式、気化式加湿器の安全性を完全否定し、加熱式加湿器を無条件で安全だ、と意図するものではないことはご理解頂きたいと思います。
しかしながらこの記事自体はブログ主が自己の責任を以て記載したものであり、分かりやすいように恣意的に記載している部分もあります。引用内容や解釈の誤りなどは全てブログ主の責によるものです。
今回引用致しました論文は、多大な労力を費やし為された大変学術的にも貴重な論文であり、個人的にも大変勉強となりました。文末にはなりましたがそれぞれの著者様方に、この場を借りて深謝致します。
原著も非常に読みやすいのでご興味ある方はぜひご一読下さい。
