こんにちは「とある医師」です。

Photo:Warning By:buggolo
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今日は現役医師の観点から「赤ちゃん子どもを守るために、絶対回避して欲しい身の回りに潜む3つの意外な危険」についてお話します。

キーワードは次の3つです。順に書いていきたいと思います。

  • タバコ
  • ボタン電池

タバコが赤ちゃん子どもにとって危険な理由


/ Gianni Dominici

最近は禁煙、分煙化が進み、愛煙家の肩身がどんどん狭くなっていることと思います。
そんな愛煙家はどこでタバコを吸うか。必然的に自宅という場合が多いでしょう。
タバコが身体に及ぼす影響なんて承知の上で吸われているのでしょうし、嗜好品ということで喫煙の是非はここでは議論しません。
ここで問題にしたいのは、タバコの吸殻のことです。
灰皿を利用されているのであれば良いのですが、空き缶を灰皿代わりにしている場合は危険です。

誰にって?それは赤ちゃんや子どもにとってです。

タバコの吸殻のお話

赤ちゃんはともかく、歩けるようになった子どもはとにかく好奇心が旺盛です。
色んな物に興味を持っては、口にしますし、試しますよね。
食べ物や飲み物の好みも出始め、ジュースも大変魅力的になってきます。
でも普段ジュースを飲める機会なんてそうありません。
そんな折に、例えばジュースやの空き缶があったら・・・。
しかもお父さんお母さんがその缶をずっと触っていたのも知っています。子どもからすれば危険なものだとは思いませんし、ものすごく興味を持ってしまいますよね。
そして、誰もいないタイミングで、子どもがその空き缶の中身を飲む。

ジュースを飲むだけならもちろん問題ありません。
でもそれが、灰皿代わりに利用された缶だったら・・・。

想像するに恐ろしいとは思いませんか?

空き缶の中のタバコ

そもそも飲んだあとですから、空き缶の中には
  • 少量の液体のみ
  • そこに吸い殻が入ってあれば、少量の液体に多量のニコチンが溶けた状態
  • そして水に溶けたニコチンは、体内での吸収が非常に早い
  • さらに悪いことに、赤ちゃん子どもは大人に比べて身体が小さい。

赤ちゃん子どもとタバコの関係、まとめ

これをまとめるとこうなります。
「お父さんお母さんが触っていた」空き缶が放置
「安心」してかつ「こっそり」中身のジュースを飲む
高濃度のニコチンを、非常に効率よく体内に吸収
体格が小さいため、さらに高濃度
重篤なニコチン中毒の可能性
ニコチン中毒は重篤な合併症を引き起こしかねません。

くれぐれも、空き缶を灰皿代わりに利用するときには、その吸い殻に十分ご注意下さい。

ボタン電池が赤ちゃん子どもにとって危険な理由

Batteries / James Bowe

続いて、ボタン電池の話です。

そもそもボタン電池、ご存知でしょうか。
リモコンなどで利用される、薄い電池です。

小型化され、また容量も大きくなったものもありますので実は様々な場面で活躍してくれている代物ですが、赤ちゃんや子どもとセットとなると非常に脅威となります。

赤ちゃん子どもとボタン電池の組み合わせ

赤ちゃんや子どもって、何でもとりあえず口にしますよね。
普通は噛むだけで済むことが多いですが、そのまま飲み込んでしまう場合があります。
通常食べ物は口→食道→胃→小腸・大腸と流れて、徐々に吸収されていきますが、ボタン電池は当然人間の身体に吸収されません。
最悪吸収されないものでも便となって通過してくれれば問題とならない場合もあります。

胃に辿り着いたボタン電池の85.4%は72時間以内に便として自然排泄されるという報告もあります(#)が、ボタン電池に関してはその形状から、食道当たりで引っかかる場合も多いようです。

ボタン電池の性質

ところで、ボタン電池には2つの種類があり、リモコンなどで使用されるタイプは3Vと電圧の高いリチウム電池が多いようです。
しかもこの電池、完全に放電するまで電流が持続するという性質を持ちます。

ボタン電池を赤ちゃんや子どもが飲み込んでしまうと

赤ちゃんや子どもがそんなボタン電池を飲み込み、食道に留まった場合。
電池と接している食道を通して、放電し切るまで通電してしまいます。
しかも通電すると、周囲にアルカリ物質を産生し、食道粘膜を損傷します。
その結果、「食道を溶かしてしまう!」ことになります。

ボタン電池が食道に留まると

食道が溶けると、つばや食べ物が食道から頸部に漏れ、重篤な感染症を引き起こします。
そのため、傷が癒えるまでご飯を食べることは出来ませんので、鼻から栄養チューブを挿入したり、胃ろうを作成しなくてはいけない場合もあります。
また溶けてしまった食道は、傷が治る過程で狭くなったり(狭窄)、固くなったり(瘢痕化)することで食べ物が通らなくなる(通過障害)可能性、あるいは最悪の場合には、食べ物の通り道を作り替える大きな大きな手術を要す場合もあります。

ボタン電池を飲み込んで症状が出現するまでは数時間以内

しかも、ボタン電池を飲み込み、食道を溶かし始めるまでの時間はなんと、1時間から数時間以内に起こるとされています。
ですから気がついた時には既に重篤な事態になっている場合も多いです。

ボタン電池のまとめ

これをまとめると


赤ちゃんや子どもが「偶然」ボタン電池を見つける
口にするだけではなく、飲み込む
食道に停滞
ボタン電池と食道の間で通電し、食道を溶かす
重篤な感染症や後遺症の可能性

ボタン電池で特に気をつけたい年齢は

何でも口にする赤ちゃんも一見危険ですが、実は報告として多いのは1−3歳です。

好奇心が旺盛で、かつ蓋を開けたりといった高度な作業を出来るようになる年齢、ということなのでしょう。

赤ちゃんや子どもを、ボタン電池から守る方法

残念ながら完全な予防策はありません。
なぜなら予想外のことを引き起こすのが赤ちゃんや子どもです。

でも、親が工夫することで少しでも可能性を減らすことは出来ます。
それは、単純なことですが、

  • リモコンの蓋などボタン電池を使用している部分を簡単には外せないようにする
  • ストックしているボタン電池を厳重に隔離する

こういった基本的なことを徹底することでしょう。

1−3歳のお子さんや電池に限った話ではなく小さいお子さんをお持ちの方は、もう一度家の中をチェックされてはどうでしょうか。

「豆」が赤ちゃん子どもにとって危険な理由

この「豆」ですが、例えでも比喩でもなく豆類を指しています。
枝豆やピーナッツ、節分の豆なんてものもあります。

え、離乳食にも枝豆を使ったメニューよく紹介されているけど・・・?
と思われた方もいらっしゃるでしょう。

アレルギー症状をお持ちの場合は別ですが、お料理として豆類を用いること自体は特段問題ありません。
今回問題となるのは、豆の成分ではなく、その食べ方です。

蒸した枝豆やピーナッツをそのまま食べる。これが極めて危険なんですね。

赤ちゃん子どもに「豆類」をそのまま食べることが危険な理由

豆類をそのまま摂取する時に、問題になる理由はその丸い形と、硬さです。
物を噛む力が弱い、あるいは乏しい赤ちゃんや子どもにとって、豆類は食べにくいものの1つです。
噛もうとすると固いし、丸いのでつるっと滑りやすい。
そうすると、つるっと喉の奥に入ってしまう場合や、実は口の中に残ってしまう場合があります。
そんな時、突然驚いたり、泣いたりした拍子に、気管の中に入り込んでしまうことがあるんですね。
気管の中に入ったら、むせるだろうと思われる方。

もちろん、赤ちゃんや子どもも目一杯むせます。でも、むせても一旦入り込んでしまった丸い豆は気管の奥に入り込み、なかなか外に出せません。

豆類を赤ちゃん子どもが誤嚥したら・・・

気管の中に豆類が入り込んだ場合、豆類と周囲で化学反応が起こり炎症を来す化学性肺炎という重篤な肺炎になってしまいます。

また、そもそも息の通り道である気管に異物があると、呼吸が出来なくなる可能性もありますので、異物=豆類を摘出しなくてはなりません。でもその摘出手術はまさに命がけと言っても決して過言ではない手術になります。

赤ちゃんや子どもにとって豆類が危険な理由のまとめ

これらをまとめるとこうなります。

赤ちゃん子どもがそのままの形の豆を口にする
食べている最中や、食直後に何かの拍子に豆がのどの奥に入り込んでしまう
気管の中に入り、咳をしても吐き出せなかったり、一部が残る
呼吸困難や化学性肺炎などの重篤な事態になる

意外に知られていない「豆類」の危険性

たったの「豆」でそこまでなるの?と思われる方もいらっしゃるでしょう。
そんな危険なのに今まで知らなかったのはなぜ?とも。

育児書にもあまり周知されていないのは恐らく頻度が圧倒的に低いからです。

もちろん教科書などには記載されているので知識はもっていますが、ボクの周りにいる小児科医や耳鼻科医のうち、中堅と言われる年齢層ですら、誰もが頻回に経験するわけではない、というような頻度です。

ですから一般の方が必ずしもご存じなくても仕方がないとも言えます。

でも自分の赤ちゃんや子どもの場合、絶対に「仕方がない」では済みませんよね。

赤ちゃん子どもがいる家庭で「豆類」で気をつけて頂きたいこと

これはもう、豆類をそのままの形で摂取しないこと。この1点が一番重要だと思います。

先述したように、豆類の成分自体が問題ではありませんので、栄養面から豆類を摂取されることは全く問題ありません。

豆をそのままの形で食べないこと。
特にピーナッツなどはお子様用のおやつにも入っていることがあり、お父さんお母さんが気をつけてあげることが大切です。

また、その他の注意点として

  • 食べている最中に、急に驚かせたりしない、泣かせたりしない
  • 食べながら走ったり遊んだりさせない
  • 車や飛行機などでの移動中に食べさせない
  • 豆を食べさせる時は潰してあげる
何かを「しながら」食べさせない。言われてみれば、行儀良く食べなさい、という基本的なところを徹底することがやはり重要なんですね。
でも、豆類に伴う危険はこれだけに留まりません。
ベビーフードにも要注意です。

ベビーフードには豆類がそのままの形で入っていることも

忙しいお父さんお母さんにとって、市販のベビーフードを利用する機会も多いと思います。
月齢に合わせたベビーフードなら安心、とお考えの方。
残念ながら、こと豆類については、決して万全と言えない部分もあります。
大豆や豆類は良質なタンパク質の摂取源として非常に優れており、やはりベビーフードにも用いられる場合が多いですよね。
でもベビーフードの豆も、結構しっかり形が残ったままの場合があるようです。

ベビーフードだから安心と思って食べさせた結果、豆を誤嚥し重篤な事態に陥る可能性があります。
実際、学術雑誌にも取り上げられ、注意喚起を促されています。

赤ちゃんや子どもと豆類の付き合い方

食べる前に(そのままの形の)豆類を取り除く。でも栄養価の高いものですので与える時は、小さく潰す。この一手間でずいぶんリスクは軽減するはずです。

たった、それだけで、赤ちゃんや子どもを守ることが出来ます。
是非覚えておいて下さい。

じゃあ、いつから子どもは豆類を食べていいの?という問いについては、残念ながら明確な答えはありません。大人でも誤嚥した場合には同様の事態が予想されるからです。

でも、歯が生えそろって自分で噛めるようになれば、ある程度危険性は下がると思われるので、お子さんの成長具合と相談されると良いと思います。
ボク自身の目安は小学校入学すれば良いのでは、と考えています。

赤ちゃんや子どもを、身の回りの危険から守るために

タバコ、ボタン電池、豆類。

実は身の回りには赤ちゃんや子どもにとって危険がいっぱいです。

しかも、ボクら大人にとっては全く危険でないにも関わらず、赤ちゃんや子どもの目線では非常に危険な場合がある、という厄介な問題です。

  • 我が家は、自分は気をつけているから大丈夫
  • うちの子は心配ない
と思われる方もいらっしゃるでしょう。
でも、そのまさかが起こるのが緊急事態というわけです。
救急外来に受診するお父さんお母さんは皆こう言います。

普段は気をつけていたんですけど・・・。

本当に些細な気遣いで回避出来る事ばかりです。
頭の隅においておくだけでもいいので、是非覚えておいて下さい。

尚、赤ちゃんや子どもの身の回りで引き起こされたトラブルについて、今回挙げたような事例も含めて、日本小児科学会が広く公開しています。

興味を持たれた方は、医学用語も用いられていますのでやや難解な面もありますが、読むことは必ずしも難しくなく、むしろこんなものでこんなことになるの?!と思われるケースが多数取り上げられていますので、見てみて下さい。
日本小児科学会該当ページはコチラ

皆様の回りにいるお子さん、そして全ての赤ちゃんや子どもが些細なことがきっかけで起こる危険性から回避出来るように。

こうした記事が少しでもきっかけになれば幸いです。

出展
#日本小児科学会雑誌2009年8月号

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